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千葉地方裁判所 昭和45年(手ワ)95号 判決

原告 有限会社 青柳酒店

右代表者代表取締役 青柳武

右訴訟代理人弁護士 梶原正雄

同 服部正美

被告 佐々木清子

〈ほか三名〉

右被告等訴訟代理人弁護士 渡辺伝次郎

主文

原告に対し、被告佐々木清子は金三五五万〇、二九〇円、被告佐々木節子、同佐々木良太、同佐々木宏子は各自金二三六万六、八六〇円、及び右各金員に対する昭和四六年三月一九日以降各完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

(当事者の求める裁判)

原告訴訟代理人

主文同旨の判決及び仮執行の宣言。

被告ら訴訟代理人

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(当事者の主張)

原告訴訟代理人

第一、請求原因

一、被告らの被相続人訴外佐々木辰男は原告に対し、別紙目録(五)(六)記載の受取人欄を白地とする約束手形二通を白地補充権を与えて振出し、原告は右(五)の手形を昭和四五年六月三日右(六)の手形を満期の後である同年一〇月六日、いずれも支払場所に呈示して支払を求めたが、その支払を拒絶されたものであるところ、原告は右手形補充権にもとずき本訴提起の後である昭和四五年一二月二〇日頃右各手形の受取人欄に原告名を記載して白地を補充し、現に同手形を所持している。

二、右佐々木辰男は、訴外株式会社青柳酒店(訴外会社と略称する)に対し、別紙目録記載の日に同目録(三)記載の受取人欄を白地とする約束手形一通を白地補充権を与えた上振出し、更に別紙同様同目録(一)、(二)、(四)、(七)乃至(十)記載の受取人欄を「青柳酒店」とする約束手形七通を振出し、原告は右各手形を訴外会社より裏書譲渡を受け、右(一)、(二)、(四)の手形を各満期の日に、右(三)の手形を満期の翌日である昭和四五年五月二六日に、右(七)乃至(九)の手形を満期の後である同年一〇月六日に、右(十)の手形を同様同年同月二日に、各支払場所に呈示して支払を求めたが、その支払を拒絶されたものであるところ、原告は右訴外会社から手形補充権も移転取得したものであるところ、本訴提起の後である昭和四五年一二月二〇日頃、(三)の手形の受取人欄に訴外会社名を記載し、又(一)、(二)、(四)、(七)乃至(十)の各手形は、「青柳酒店」との記載のみであり、訴外会社の「株式会社」の肩書の記載がおちていたので、斯様な補充権もあると解せられるので、同日右肩書部分を補充記載した。

三、以上のとおり、原告は右各手形の振出人である佐々木辰男に対し、右手形金合計一〇六五万〇八七〇円の手形債権をもつところ、同人は昭和四五年五月一九日死亡し、同人の妻である佐々木清子(相続分三分の一)、その子である被告佐々木節子、同良太、同宏子(各相続分は九分の二)は相続により、右辰男の債務を承継した。

四、よって、原告は被告清子に対し、右手形金のうち三五五万〇、二九〇円、その余の各被告等に対しそれぞれ二三六万六、八六〇円、及び右各金員に対する白地補充の後である昭和四六年三月一九日以降完済まで商法所定の年六分の割合による金員の支払を求める。

第二、被告の主張に対する認否

一、被告主張の変造の事実は否認する。補充権を行使したものである。尚受取人欄補充前の「青柳酒店」と第一裏書人「株式会社青柳酒店」との記載は、一般的に同一のものを表示しているものと理解され、裏書は連続している。

二は争う。訴外会社と原告は別人格の会社である。

三は否認する。

被告ら訴訟代理人

第一、請求原因事実に対する答弁

一、二のうち、主張の日に主張の手形の呈示があったが支払を拒絶されたこと、(三)、(五)、(六)の手形につき本訴提起後昭和四六年三月一九日までに受取人欄の白地が主張のとおり補充され、その余の手形につき「株式会社」の肩書が記載されたことは認めるが、右補充権は争い、その余の事実は不知。

三のうち、被告等が佐々木辰男の妻及び子として、その遺産相続人であることは認めるが、その余の事実は否認する。

四は争う。

第二、被告の主張

一、仮に佐々木辰男が原告主張の約束手形を振出したとしても、(一)、(二)、(四)、(七)乃至(十)の各手形の受取人は「青柳酒店」であったものを「株式会社青柳酒店」と変造されたものであり、変造前の約束手形によれば、第一裏書人は「株式会社青柳酒店」とあり、裏書の連続を欠き、原告は手形所持人として、同権利を主張することはできない。

二、(一)乃至(四)、(七)乃至(十)の各手形を株式会社青柳酒店から原告が裏書譲渡を受けたものであれば、株式会社青柳酒店の清算人と原告会社の代表取締役とは同一であり、民法第一〇八条の双方代理の規定に反し、右裏書譲渡は無効である。

もっとも商法二六五条による取締役会の承認があれば、右民法の規定は除外されるが、本件手形の裏書譲渡には斯る承認はなされていない。

三、原告主張の(三)の手形の受取人欄は原告が擅に訴外会社名を、同(五)、(六)の受取人欄は同様原告名を記入したものであって、変造されたものであり、同手形は受取人の記載のない未完成手形であり、被告等にはその支払の責任はない。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一、≪証拠省略≫によれば、訴外亡佐々木辰男は、別紙目録記載の(一)乃至(四)、(六)乃至(十)の各約束手形を訴外株式会社青柳酒店に宛て振出したこと、当時右訴外会社は昭和四四年七月一四日設立されて、従前原告有限会社青柳酒店として行っていた酒類等の販売を同会社にかわり行ったものである(右有限会社は昭和四四年七月一三日解散)が、同訴外会社は昭和四五年四月四日解散してその営業を廃止し、これにかわり、同日、再び従前の原告有限会社青柳酒店を継続することとし、原告会社が、右営業を引継いだものであることが認められる。以上の事実から、本件右各手形はいずれも訴外会社に宛て右(五)の手形は原告に宛て振出されたものであることが推察される。

二、上記(三)、(五)、(六)の手形はいずれも受取人欄は白地であったところ、本訴提起後昭和四六年三月一九日までの間、原告において(三)の手形には訴外会社名を、(五)、(六)の手形には原告名を記載してその白地を補充したものであることは当事者間に争いがない。ところで、≪証拠省略≫によれば、上記各手形は通常の手形用紙を用い、受取人欄のみを白地とし、他の手形要件を記載して振出人が記名捺印してこれを作成し交付している事実からすれば、右手形は白地部分の補充権を与えて、所謂白地手形として振出されたものであることが推定されるから、右手形の交付を受けてこれを譲受けたもの、又はその裏書譲渡を受けたものは、いずれもその白地補充権も又同時に取得したものと解せられ、右手形の現在の所持人であると認められる原告において、その白地の補充を行い、約束手形として完成して、その権利を行使し得るものといわねばならない。

三、≪証拠省略≫によれば、別紙目録(一)、(二)、(四)、(七)乃至(十)の各手形は、いずれも訴外会社の裏書人欄白地の第一裏書があり、(七)乃至(十)の手形には被裏書人白地の原告の第二裏書がなされていたが、いずれも本訴提起後第二裏書欄は抹消され、右各手形には第二裏書として原告を被裏書人とする訴外会社(清算人青柳武)の裏書がなされていることが認められる。ところで右各手形の受取人欄は「青柳酒店」と記載されているところ、本訴提起後、原告は同欄に「株式会社」との記載を加え、これも手形の補充権の行使である旨を主張している。

上記のとおり、右各手形は、訴外会社に宛てる趣旨で「青柳酒店」と既に受取人欄を記載してあり、完全な手形として振出されているものであることが推察され、特にその肩書である株式会社の補充権を与える趣旨であったと認めるに足る証拠はない。

もっとも、右「青柳酒店」と第一裏書人である「株式会社青柳酒店」とは、その表示において同一ではないが、所謂個人企業的色彩の濃い株式会社組織における酒店においては、その肩書を除外して「青柳酒店」と称することは世上一般的に認められるところであり、社会通念上両者は同一のものを現わしているものと理解されるから、右各手形は裏書の連続があるといわねばならない。

四、被告らは訴外会社から原告が本件(一)乃至(四)、(七)乃至(十)の各手形の裏書譲渡を受けたとすれば、両会社の代表者が同一人であるから、商法第二六五条の承認がなされておらず、無効である旨を主張するが、斯る事由はその無効を主張するものにおいて主張立証を要するものと解され、同事実を認めるに足る証拠がない。

五、被告清子は亡佐々木辰男の妻として、その余の被告らはその子として相続をしたことは当事者間に争いがないから、原告は本件各手形につき、右手形債務を承継した被告らに対し、相続分に応じてその請求をなし得るものと解され、原告の被告清子に対する三五五万〇、二九〇円、その余の各被告に対する各自二三六万六、八六〇円と、右各金員に対する呈示及び白地補充の後である昭和四六年三月一九日以降商法所定年六分の割合による損害金の支払を求める本訴請求は正当である。

六、よって、原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条一項を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大内淑子)

〈以下省略〉

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